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高知地方裁判所 昭和49年(ワ)554号 判決

原告 企業組合東山温泉

右代表者代表理事 竹田繁

右訴訟代理人弁護士 藤原周

右訴訟復代理人弁護士 藤原充子

被告 左古武男

右訴訟代理人弁護士 林一宏

同 岡崎永年

主文

原告と被告との間において、原告が別紙目録(一)、(二)記載の土地の温泉権を有することを確認する。

被告は別紙図面イ、ハから出ている引湯管を収去せよ。

被告は、原告が別紙図面イ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ及びハ、ホ、ヘ、ト、チ並びにロ、ニをそれぞれ同図面表示の点線のとおり結んだ部分にある引湯管を使用することを妨害してはならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判及び主張

一  請求の趣旨

1  主文同旨

2  (主文第一項の予備的請求)原告と被告との間において、原告が別紙目録(一)、(二)記載の土地の温泉利用権を有することを確認する。

3  主文第二項、第三項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求原因

1  安並部落(幡多郡東山村安並)は別紙目録(一)、(二)記載の土地を所有していた。

2  右土地上には別紙図面イ、ロ、ハの三箇所で温泉が湧出していたところ、右部落に居住していた左古家が同部落から温泉を借り受けこれを利用していた。

3  右温泉は古来「奥の湯」と呼ばれ、治療、保養に利用されており、その経済的価値は大きく土地から独立した財産的価値を有していたから、慣習上の物権としての温泉所有権が成立したものというべきである。温泉所有権とは源泉権、湯口権とも呼称され、温泉を直接かつ排他的に支配し、温泉の採取、利用、管理及び処分等一切の権能を含む包括的、全面的支配権であり、温泉利用権とは一面的支配権のことである。

ところで安並部落は明治四三年その所有する不動産を部落住民に分配したが、その際、左古家の光間が別紙目録(一)、(二)記載の土地を含む山林の配分を受け、温泉所有権(温泉利用権を含む)を取得した。

4  光間は明治二四年長男の丑吉が官吏として県外に居住していたので次男の春吉に右温泉所有権(温泉利用権を含む)を譲渡し、春吉が旅館業を受け継いだ。

5  右春吉は昭和三二年一二月頃娘吉本民子に右権利を譲渡した。すなわち、民子が夫と死別し子の正之を連れ実家に戻っていたので、春吉が娘と孫の将来の生活を考え、自活の資として、中村市安並字成川三三九四番、同所三三九五番の宅地上に浴屋を含んだ建物を新築し、これらと共に温泉経営に必要な一切の権利を同女に贈与したのである。

6  原告組合が本件温泉に対する権利を取得した経過は次のとおりである。

(一) 右民子は松岡徳安、左古忠、左古八重子と共に、高知県知事に対し昭和三二年一二月二五日、旅館及び温泉営業とこれに附帯する事業を目的とした原告組合の設立認可を申請し、同月二七日認可され、昭和三三年四月八日設立登記手続を経由した。ところで、原告組合の出資は一口五〇〇円で、口数は松岡、民子、八重子各一〇〇〇口、忠八〇〇口、明神鹿治二〇〇口、田中雅雄四〇口と定められたが、実際は民子が前記土地、建物及び温泉に対する権利を出資しただけであった。なお、原告組合は右土地建物につき同年九月一一日所有権移転登記を了した。

(二) 仮に、民子が温泉に対する権利を原告組合に出資した旨の右主張が認められないとしても、原告組合は昭和三四年六月二七日民子から温泉に対する権利の譲渡を受け、被告もこれにつき異議がなかった。すなわち、原告組合は設立以来民子、松岡が中心となり温泉業を営んできたが、多額の負債から経営不振となったので、笠井渉、竹田繁、豚座正春がその経営を引き継ぎ理事に就任した。ところで、笠井らは原告組合の基礎は温泉所有権少なくとも温泉利用権にあると考えその帰属を明確にし、さらに株式会社高知相互銀行(中村支店)から金員を借り入れるに際し右権利を担保とする必要から、昭和三四年六月二七日民子及び被告に右権利が原告組合に帰属することを確認させ担保物件提供書(甲第二〇号証)を作成提出させた。なお、右甲第二〇号証には、(イ)民子が温泉所有権少なくとも温泉利用権を原告組合に出資すること、(ロ)民子が原告組合を脱退しても右権利は原告組合に帰属し金銭で払い戻すこと、(ハ)原告組合が解散するときは右権利は民子に帰属すること、(ニ)左古家が温泉を利用する場合は原告組合の運営に障害のない範囲の使用に限定することなどの記載がある。この甲第二〇号証による合意は民子に温泉所有権少なくとも温泉利用権、同掘削権が帰属することを前提とし、その権利を原告組合に帰属させる合意であり、これを被告自身同意、確認しているものである。

(三) 仮に右主張も理由がないとしても、原告組合は昭和四五年九月二八日民子から温泉に対する権利の譲渡を受けた。すなわち、民子は同日頃原告組合を脱退したが、その際原告組合は民子が出資した前記土地、建物、温泉所有権ないし温泉利用権、温泉掘削権等の資産の対価、退職金等として、民子に金七〇〇万円を支払うことを約して、これを弁済し、公正証書を作成した。右行為は法的には民子の脱退による持分の払戻であるが、後日のため温泉所有権少なくとも温泉利用権、温泉掘削権の帰属を明確にするため売買の形式をとったのである。したがって、原告組合は遅くとも右公正証書作成のとき民子から温泉所有権少なくとも温泉利用権、温泉掘削権の譲渡を受けたものである。

7  しかるに、被告は、本件温泉所有権、温泉利用権が原告組合に帰属することを争い、昭和四六年別紙図面イ、ハの湧出口に設置された原告組合の引湯管を除去し、自家用に引湯管を設置した。

8  別紙目録(二)記載の土地は原告組合設立当時春吉が所有していたが、右土地のうち別紙図面イ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ及びハ、ホ、ヘ、ト、チ並びにロ、ニをそれぞれ同図面表示の点線のとおり結んだ部分にある引湯管の敷地部分につき、原告組合は設立当時春吉から無償で借り受ける契約を明示又は黙示的に締結し、それを右土地の所有権を取得した被告は前記担保物件提供書(甲第二〇号証)をもって同意承諾した。

仮に右使用収益権が認められないとしても、被告が原告組合に対し、前記引湯管の敷地部分につき原告の使用を認めないのは土地所有権の社会性に反し、権利の濫用である。すなわち、本件引湯管は直径約一・五センチメートルのビニール管で川岸の傾斜地に沿って設置されているから被告所有土地に殆ど実害がなく、これに反し原告組合にとっては右引湯管の設置が許されないと温泉旅館業が営めず多額の投資は無に帰し本件温泉の効用が治療用にあることなどを考慮すると、その被害は甚大である。

9  よって、原告は被告に対し、本件温泉所有権、予備的に温泉利用権が原告に帰属することの確認、右権利にもとづく妨害排除請求権により被告所有の引湯管の収去並びに前記使用貸借権あるいは権利濫用論により右引湯管の使用の妨害禁止を求める。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3は否認する。

3  同4のうち、光間の長男丑吉が官吏であったこと及び次男春吉が旅館業を受け継いだことは認めるが、その余は否認する。光間は明治四三年一〇月二四日別紙目録(一)記載の土地を温泉付で安並部落から買受け、明治四四年六月一二日所有権移転登記を了したが、大正一四年一〇月一六日同人が死亡したのでその家督相続人丑吉が右土地及び温泉の所有権を取得し大正一五年一〇月二六日所有権移転登記を経由した。しかし、丑吉は高知県庁に勤める官吏であったから、春吉が温泉を借り受け昭和七年頃まで旅館を経営していた。そして、被告が左古家の養子となった後の昭和八年頃から、被告とその妻直枝が旅館業を引き継ぎ昭和二〇年頃まで本件温泉を使用してきたところ、昭和二四年一一月頃被告は丑吉から右土地と温泉を買受け、同月二二日所有権移転登記を了した。また、別紙目録(二)記載の土地は、明治四三年一〇月二四日池本熊太郎が安並部落から温泉付で買受け、さらに、大正一三年五月二九日春吉が温泉付で買受け、それぞれ移転登記を経由した。そして、被告夫婦が昭和一〇年頃以降右温泉も使用していたところ、春吉は昭和三三年一〇月一二日温泉付で右土地を被告に贈与し、同月一六日所有権移転登記がなされた。したがって、被告が別紙目録(一)、(二)記載の土地を温泉とともに所有している。

4  同5のうち、民子が子供連れで実家に戻っていたことは認めるが、その余は否認する。被告は昭和三五年初め頃温泉宿を休んでいたので、将来被告が温泉宿を再開する場合とか被告の子供が温泉宿を引き継ぐ場合にはいつでも返還する約束で、民子に本件温泉の使用を許したのである。

5  同6の(二)のうち、民子から原告会社に対する温泉所有権ないし温泉利用権の譲渡につき被告に異議がなかったことは否認する。甲第二〇号証の被告名義及び被告名下の印影はいずれも原告によって偽造されたものである。その余の事実も争う。

6  同7は認める。

7  同8のうち、別紙目録(二)記載の土地が原告組合設立当時春吉の所有であったことは認めるが、その余は否認する。

五  抗弁

被告は別紙目録(一)、(二)記載の土地につき前記四の3の経過により所有権を取得し移転登記を了した。しかるに、原告は仮に温泉所有権あるいは利用権を取得したとしても、その対抗要件を具備していない。

六  抗弁に対する認否

被告が別紙目録(一)記載の土地を取得した経過は丑吉から被告へ譲渡した日時を除き認めるが、右日時の点及び同目録(二)記載の土地については否認する。

七  再抗弁

左古家は代々本件温泉から引湯し旅館業を含み、また、原告組合は温泉取得以来丸型水槽、別紙図面イ、ニとロ、ニ及びハ、ホ、ヘ、ト、チ並びにニ、ホ、ヘ、ト、チをそれぞれ同図面表示の点線のとおり結んだ部分にビニール管を設置し旅館業を営んでいる。

八  再抗弁に対する認否

否認する。

第二証拠《省略》

理由

一  別紙目録(一)、(二)記載の土地上の別紙図面イ、ロ、ハの三箇所で温泉が湧出していること、もと安並部落(幡多郡東山村安並)が右土地を所有していたこと、同部落に居住していた左古家が同部落から右温泉を借り受け利用していたことはいずれも当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

1  本件温泉は「奥の湯」と呼ばれ、左古家が一五〇年位前からこれを利用し旅館業を営んで来たもので、左古家は温泉の湧出口が谷川に沿った場所であったので、そこから竹管で引湯していた。

2  光間の代に一時休業していた営業を再開し、明治二四年頃に同人の長男丑吉が官吏であったので、次男春吉がこれを引き継いだ(但し長男丑吉が官吏であったこと、次男春吉が旅館業を引き継いだことは当事者間に争いがない)。

被告が左古家の養子となった昭和七年頃から昭和一九年頃までは、被吉夫婦も旅館で働いていたが、営業税等は春吉名義で支払われていた。

3  民子が夫と死別し子供を連れ実家に戻り飲食店で働いていたところ、春吉はその将来の生活を心配し、昭和三二年九月一〇日中村市安並字成川三三九四番宅地七二・七二平方メートル及び同所三三九五番宅地一三二・二三平方メートルを贈与し、そこで中断している温泉を民子に引き継がせた(但し民子が子供連れで実家に戻っていたことは当事者間に争いがない)。

民子は松岡徳安、安田豊一と共に右土地上に旅館を新築し、同年一〇月一九日付で所有権保存登記を了した。

4  同年一二月六日民子、松岡、左古八重子(各出資引受数一〇〇〇口、一口金五〇〇円、以下同様)、左古忠(出資引受数八〇〇口)が発起人となり、他に引受人明神鹿治(同二〇〇口)、田中雅雄(同四〇口)と共に旅館及び温泉営業並びにこれに附帯する事業を目的とする原告組合の設立をはかり、同月二五日高知県知事に対し中小企業等協同組合法による企業組合の設立の認可を申請し、同知事は同月二七日これを認可し、ここに代表理事松岡、理事民子、忠、八重子、明神とする原告組合が設立され、昭和三三年四月八日その旨登記された。

その後同年六月一〇日代表理事田中、理事民子、松岡、尾崎花枝、岩本サツエ、さらに同年八月七日代表理事安田、理事民子、岩本、山崎竹馬、明神にそれぞれ変更された。

5  民子及び松岡は原告組合の運営資金として、同年五月三一日池田米一から金四六万円、同年六月四日安田から金七万六四〇〇円、さらに民子、松岡及び安田は同年七月一九日池田から金一〇万五〇〇〇円をそれぞれ借り受け、前記旅館及びその敷地に抵当権を設定した。

また民子、松岡、安田は右旅館及びその敷地につき同年九月一一日付で原告組合名義に所有権移転登記をした。

6  ところで、設立以来主として、民子と内縁の夫となった松岡とが原告組合を経営してきたが、前記借金の支払に窮するようになり、昭和三四年六月一一日笠井渉が春吉からの援助依頼を受け、本件温泉を買収し中村市の観光施設として拡張する計画を立てた。

そして笠井は、株式会社高知相互銀行(中村支店)から融資を受ける際、本件温泉に担保を設定しようと考え、同月二七日民子、春吉及び被告の承諾のもとに担保物件提供書(甲第二〇号証)を提出させた。その主な内容は(イ)民子は温泉権を金四〇万円と評価して出資金に充当し原告組合に帰属させること、(ロ)民子は本件温泉を使用転売してはならないというものである。また、このとき被告は原告組合が設置した後記引湯管の敷地部分を無償で使用することを認めた。

こうして笠井は、株式会社高知相互銀行から融資を受け同月三〇日前記借金を弁済し、その抵当権を抹消し、その後同年七月二二日付で前記旅館及びその敷地につき、債務者原告組合、債権者株式会社高知相互銀行、極度額金一〇〇万円の根抵当権設定登記をした。なお、同銀行は本件温泉に対し正規の担保権の設定をうけなかったが、温泉が含まれることを前提とし右根抵当権を取得した。

なお、原告組合は同月一〇日代表理事に竹田繁、理事に笠井、豚座正春、民子、明神が就任して、再スタートをきった。

7  原告組合の昭和三五年三月三一日現在の貸借対照表には資産の部に温泉利用権金四〇万円と計上されている。

8  民子は春吉の承諾のもと昭和三六年二月二二日高知県知事より温泉掘削の許可を受け、翌二三日温泉利用(浴用)の許可を受けた(なお、本件温泉付近では公簿と実測とのくいちがいがみられるので、民子及び春吉は右許可の申請書及びそれに添付する承諾書に記載すべき本件温泉の地番を書き誤った。さらに、同年五月一日付温泉台帳の温泉所有者、温泉利用者がいずれも民子名義になっているが、これは民子が温泉に対する権利関係を考慮することなく前記申請をし、また、温泉台帳作成係官が申請書の記載にもとづき民子らを口頭質問し、かつ、現地調査等をするのみで、ほかに特別の調査をすることなく作成したことによるものである。)。

9  その後、民子が原告組合を脱退するに際し代表理事竹田らに温泉権の買取り方を要求したので、同人らは温泉に関する一切の権利(掘削、利用を含む)を原告組合に完全に帰属させる意図で退職金等を含め金七〇〇万円を支払い、これを買取り、昭和四五年九月二八日その旨の公正証書を作成した。

10  そのころ民子は本件温泉の廃止届を所轄保健所に提出し、同人の子正之は民子の意思をうけ笠井に対し、本件温泉の権利一切が原告組合に帰属する趣旨の手紙を送付した。

11  ところで、本件湯口の地盤所有権は別紙目録(一)記載の土地につき、明治四三年一〇月二四日安並部落から光間(売買)、大正一四年一〇月一六日光間から丑吉(相続)、昭和一六年一〇月五日丑吉から被告(売買)と移転し、同目録(二)の土地につき、明治四三年一〇月二四日安並部落から池本熊次郎(売買)、大正一三年五月二九日池本から春吉(売買)、昭和三三年一〇月一一日春吉から被告(売買)と移転した(但し右前段につき丑吉から被告への譲渡日時を除き、その余は当事者間に争いがない)。

12  原告組合は別紙図面イ、ニ、ホ、ヘ、ト、チとハ、ホ、ヘ、ト、チとロ、ニをそれぞれ同図面表示の点線のとおり結んだ位置に直径約一・五センチメートルのビニール管、ニ点に五個の直径約七〇センチメートル、深さ約九〇センチメールのコンクリート製の丸型水槽、チ点に縦約一・八七メートル、横約一・六七メートル、高さ約一・九メートルのコンクリート製の角型水槽を設置している。

《証拠判断省略》

三  右掲記の事実関係によれば、本件温泉は古来「奥の湯」と称され、旅館営業に用いられ、担保取引の対象となるなどその経済的価値が高く、また、その湯口が川沿にあることから引湯管を設置し他所で旅館を営むなどその利用態様が外形的に認識しうるほど明確であるので、これに対し独立の支配権である慣習上の物権としての温泉権が成立していると解するのが相当である。

そして、光間、春吉、民子と受け継がれた温泉権の内容は左古家のみが利用してきたものであり、処分権能をも含むことから温泉を直接かつ排他的に支配できる土地所有権類似の温泉権であったことが窺われる。

そこで、原告組合が取得した温泉に対する権利の内容につきみるに、9で認定した公正証書が作成された昭和四五年九月二八日頃までは前記担保物件提供書の内容、貸借対照表の記載等から湯口から湧出する一定湯量を利用できる温泉利用権であったと解されるけれども、同日以降は前記公正証書の記載、前記9、10で認定したような民子らのその後の言動等からみると、原告組合は、処分権能を含む温泉権を取得したものと認めるのが相当である。

ところで、本件湯口の地盤所有権は転々譲渡され、現在被告に帰属するので、温泉権の対抗問題が生ずるが、本件温泉には古くから竹製の引湯管が設置され、以後も継続して、光間、春吉、民子、原告組合らにより温泉を採取、利用、管理するための施設が設けられ、現在も原告組合によりビニール製の引湯管、コンクリート製の貯水槽の各施設が設置されているので、温泉を継続的に管理支配していることが窺われ、これが明認方法となりうるので、原告組合の本件温泉権はその対抗要件を具備しているものといわねばならない。

しかるに、被告が右温泉権の帰属を争っていることは当事者間に争いがないから原告組合にその確認の利益がある。

よって、原告組合の本件温泉権(原告のいう温泉所有権)確認請求は理由がある。

次に、被告が別紙図面イ、ハの湧出口に設置された原告組合の引湯管を除去し、そこに自家用の引湯管を設置していることは当事者間に争いがないところ、これは原告組合の本件温泉権の行使を妨害するもので、原告はそれにもとづく妨害排除請求権により右土地の所有者である被告に対しても右引湯管の収去を求めることができるといわなければならない。

さらに、原告組合が被告から別紙図面イ、ニ、ホ、ヘ、ト、チとハ、ホ、ヘ、ト、チとロ、ニをそれぞれ同図面表示の点線のとおり結んだ引湯管の敷地部分につき昭和三四年六月二七日頃使用貸借権を取得したことは既に認定したとおりで、被告は貸主として借主の使用収益を許容する義務を負担するので、原告組合の右使用を妨害してはならない。

四  以上の次第で、原告の本訴請求(温泉権の確認については主位的請求)はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、仮執行宣言の申立については相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鴨井孝之 裁判官 三谷忠利 都築弘)

〈以下省略〉

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